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名古屋高等裁判所 平成3年(行コ)7号 判決 1992年10月21日

第二四号事件控訴人、第二七号事件被控訴人・附帯控訴人(原告) 加藤萬基こと李萬基

第二四号事件被控訴人、第二七号事件控訴人・附帯被控訴人(被告) 千種税務署長事務承継者 昭和税務署長

主文

1  一審原告の控訴及び附帯控訴をいずれも棄却する。

2(一)  一審被告承継者の控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。

(二)  一審原告の請求を棄却する。

3  訴訟の総費用は一審原告の負担とする。

事実

一  当事者双方の申立

1  一審原告

「(一) 原判決を次のとおり変更する。

(1)  千種税務署長が昭和四八年三月七日付でした一審原告の昭和四四年分ないし昭和四六年分所得税の更正(ただし、昭和四四年分については異議決定及び審査裁決により、昭和四五、四六年分については審査裁決により一部取り消された後のもの。以下「本件処分」という。)を取り消す。(主位的請求・附帯控訴)

(2)  本件処分のうち、<1> 昭和四四年分については総所得金額七六二万〇六七九円を超える部分、<2> 昭和四五年分については総所得金額三八〇七万〇七七一円を超える部分、<3> 昭和四六年分については総所得金額二七〇五万〇三八二円を超える部分を取り消す。(予備的請求・控訴)

(二) 一審被告承継者の控訴を棄却する。

(三) 訴訟費用は第一・二審とも一審被告承継者の負担とする。」

との判決を求めた。

2  一審被告承継者

主文同旨の判決を求めた。

二  当事者双方の主張

次のとおり付加、訂正、削除するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決二枚目裏七行目の「被告」を「千種税務署長」と改め、同八行目の括弧書及び同三枚目表二行目から同五行目にかけての括弧書を削り、同六行目末尾の次に行を変えて次のとおり加え、同七行目の「3」を「4」と改める。

「3 一審被告承継者の権限承継

一審原告は、昭和六〇年一二月二五日、住所を肩書のところに移転したが、一審被告承継者が右住所地を管轄する税務署長である。」

2  同三枚目表一〇行目の「1項」の次に「及び3項」を加え、同裏一行目のの「3項」を「4項」と改める。

3  後出の改める部分にある「被告」を除いて、同三枚目裏から同四八枚目表にかけての「被告」をすべて「一審被告継承者」と改める。

4  同三枚目裏八行目、同一一行目、同四枚目表六行目、同三四枚目表四行目、同裏二行目から三行目にかけて、同三八枚目表五行目及び同四四枚目表一一行目の「被告」を「千種税務署長」と改め、同五枚目裏一〇行目から一一行目にかけて及び同六枚目表四行目から五行目にかけての「原告は自白の撤回が許されるための要件を何ら主張・立証せず、」を、同一一枚目表一〇行目から一一行目にかけて及び同一六枚目表四行目から五行目にかけての「原告は自白の撤回が許されるための要件につき何ら主張・立証せず、」をそれぞれ削る。

5  同二五枚目表八行目から九行目にかけての「控除すべき金額がある」を「必要経費が存在することは、後記一審原告の反論3、4項記載のとおりである」と改め、同二八枚目裏七行目末尾の次に行を変えて次のとおり加える。

「 なお、一審被告承継者は、一審原告の総収入金額は国税不服審判所長のした審査裁決により認定された額を超えていると主張している。しかし、右主張は、国税通則法一〇二条一項に反するほか、国税不服審査における争点主義的運営を経た納税者の期待感にも反するものであって、許されないというべきである。また、本訴において審査裁決中で認められなかった一審原告の主張経費が認められたときは、右で述べたと同様の理由により、審査裁決が判断した所得金額を前提としたうえ、これから右経費額を控除するのが相当である。」

6  同二八枚目裏九行目、同一〇行目、同二九枚目裏一行目、同三〇枚目表二行目、同裏二行目、同七行目、同三一枚目裏三行目、同三二枚目裏二行目及び同五行目の「被告」を「一審被告承継者の主張」と、同二九枚目表二行目から三行目にかけての「被告の推計」を「一審被告承継者主張の推計方法」とそれぞれ改め、同六行目の「被告による」を削り、同八行目の「所得金額」の次に「に関する千種税務署長又は一審被告承継者の主張」を、同一〇行目の「異なるのは、」の次に「それ自体」をそれぞれ加え、同三〇枚目表三行目の「算定しているが」を「算定するというものであるが」と、同裏三行目の「乗じているが」を「乗ずるというものであるが」と、同三一枚目裏四行目の「除外し」を「除外するというもので」とそれぞれ改める。

7  同三七枚目表八行目の「所得金額が、被告による」を「所得金額につき、」と、同一〇行目の「各段階で」を「各段階において千種税務署長又は一審被告承継者の主張するところが」とそれぞれ改める。

8  同三八枚目裏四行目の「被告」を「一審被告承継者主張」と改め、同四六枚目裏一一行目末尾の次に行を変えて次のとおり加える。

「 本件においては、本件係争年にわたり、一審原告の収入がその全部を漏れなく捕捉されたことの保証はない。そして、一審原告がこのような収入金額を前提として実額による必要経費の主張・立証をしようとする場合、単にその経費の支出の事実を主張・立証するだけでは足りず、その経費が右収入金額に対応するものであることを主張・立証しなければならないというべきであるが、その主張・立証はないから、一審原告の右支払利息の主張は、いずれにしても理由がない。」

三  立証<省略>

理由

一  一審原告の本訴請求はいずれも棄却すべきものであり、その理由は、次のとおり付加、訂正、削除するほか、原判決A一枚目表二行目冒頭から同A四五枚目裏五行目末尾までのとおりであるから、これを引用する。

1  後出の改める部分にある「被告」を除いて、原判決A一枚目表から同A二三枚目表にかけての「被告」をすべて「一審被告承継者」と改める。

2  同A一枚目表三行目の「被告の主張」を「3(一審被告承継者の権限承継)、一審被告承継者の主張」と、同裏三行目から四行目にかけての「被告の採用した」を「一審被告承継者の主張する」とそれぞれ改める。

3  同A一枚目裏八行目から九行目にかけての「把握することができた」を「把握することができたとする」と、同A二枚目表三行目から四行目にかけての「被告の認定した」を「一審被告承継者の主張する」と、同六行目の「成立に」を「原本の存在と成立につき」と、同A三枚目表四行目の「被告認定」を「一審被告承継者の主張」と、同裏一〇行目から一一行目にかけての「右と同様に解してした被告の認定」を「右と同旨の一審被告承継者の主張」と、同A四枚目表一行目の「これに対し」を「ところで」とそれぞれ改め、同八行目の「相当であり、」の次に「右の堀義清分につき」を加え、同裏四行目及び同一〇行目の「これを同様に解してした被告の認定」、同A五枚目裏一〇行目の「右と同様に解してした被告の認定」並びに同A六枚目表四行目から五行目にかけての「同様に解してした被告の認定」を「右と同旨の一審被告承継者の主張」とそれぞれ改め、同A七枚目表九行目の「認めることができる」の次に「(なお、資料6別紙一、二のとおり、本件台帳記載の利息収入の一部については当事者間に争いがない。)」を加える。

4  同A七枚目裏一行目の「第二九号証」の次に「(以上の乙号各証については原本の存在も)」を、同六行目の「第五九号証」の次に「(乙第三三号証については原本の存在も)」をそれぞれ加え、同A八枚目裏九行目の「第五三号証の一ないし三」を「第五三号証の一・二」と、同A九枚目表二行目の「1」を「<1>」と、同行及び同三行目の「2」を「<2>」とそれぞれ改め、同四行目の「本人尋問の結果」の次に「(原審及び当審)」を加え、同七行目冒頭から同裏五行目末尾までを次のとおり改める。

「 なお、一審被告承継者は、一審原告が右の一部(資料2の別紙一(別紙<9>)番号1・2及び100、別紙一(別紙<6>)番号1ないし3並びに別紙一(別紙<2>)番号44・45及び61)につき自白の撤回をしたとしてこれに異議を述べるところ、本件全証拠によっても右自白が真実に反すると認めることはできず、結局、右証書貸付等に係る利息収入に関する一審被告承継者の主張事実は、右を含め、(1) 資料2の別紙一(別紙<9>)番号1・2、別紙一(別紙<6>)番号1ないし3・24・26及び230ないし245、別紙一(別紙<2>)番号44・45・48ないし60・83ないし99及び101ないし121、並びに別紙一(別紙<3>)番号32ないし36の貸付がなされた事実(その約定内容を除く。)は当事者間に争いがなく、また、(2) 資料2の別紙一(別紙<9>)番号100及び別紙一(別紙<2>)番号61については一審被告承継者主張の内容の貸付がされた事実は当事者間に争いがないこととなる(一審原告は、右の一部については自白が成立していない旨を主張するが、右につき自白が成立していることは記録上明らかである。また、課税取消訴訟における主要事実は、所得金額の算定に必要な個々の所得発生原因事実をいうと解するのが相当である。)。」

5  同A九枚目裏八行目及び同A一五枚目表六行目の「本人尋問の結果」の次に「(原審及び当審)」を加え、同A九枚目裏一一行目の「第六〇号証」を「第三七号証、第三八号証の一・二、第三九号証ないし第五一号証、第五三号証の一ないし六、第五四号証の一ないし一七、第五六号証ないし第六〇号証」と、同A一一枚目表二行目の「はないこと」を「を窺うことができないうえ」と、同六行目の「これらの事実」から同裏一行目末尾までを「これらからすると、一審原告本人の前記供述をもって右(一)の事実を動かすことはできない。」と、同裏一一行目の「第一九号証及び第二〇号証」を「第二〇号証及び第二一号証」とそれぞれ改める。

6  同A一九枚目表二行目の「いうべきである」の次に「(前記2の利息収入のうち平田関係の占める割合が高く、取引回数も多く、右の関係を除いたその余の受取利息割合が高率に上ることは一審被告承継者主張のとおりであるが、さりとて、右の事情をもって、平田関係を除いて計算した受取利息割合の方が一審原告の貸付先不明の貸付の利息を推計するうえで合理的であるとすることもできないし、その他、前示したところに反し殊更平田関係を除いて計算した割合が合理的であると認めるべき事情はない。)」を加え、同A二〇枚目表一行目の「被告の認定」を「千種税務署長又は一審被告承継者の主張」と、同五行目及び同A二一枚目表四行目の「被告」を「千種税務署長」とそれぞれ改める。

7  同A二五枚目表八行目の「第二八号証」を「第二九号証」と、同裏一行目から二行目にかけての「それぞれ書面で債務免除の意思表示をしたこと」を「書面を発送したが、右書面には債務免除の趣旨が記載されていたこと」と、同六行目の「意思表示が」を「趣旨を含む書面が発送」とそれぞれ改め、同A三六枚目裏四行目の「弁論の全趣旨によれば、」を削る。

8  同A四一枚目表一行目冒頭から同A四五枚目裏五行目末尾までを次のとおり改める。

「3 借入利息について

一審被告承継者は、支払利息に関する一審原告の主張(一審原告の反論4項)につき、一審原告の収入金額として一審被告承継者が主張した金額は確実に捕捉し得たもののみであって、その一部にとどまるおそれがあるところ、このような場合において一審原告がこの収入金額を前提として実額による必要経費を主張・立証するためには、この経費の支出の事実を主張・立証するだけでは足りず、その経費が右収入金額に対応することを主張・立証する必要があると主張する。

しかしながら、事業所得については、各年における事業活動に支出した経費である限り、収入金額との具体的個別的な対応を論ずるまでもなくこれを必要経費とするべき筋合のものであるうえ、所得に関する課税処分取消訴訟においては、所得計算の根拠となる収入金額と経費のいずれについても課税庁に主張・立証責任があるというべきであって、一審被告承継者において、収入金額の捕捉漏れの可能性を指摘するのみで、その具体的な金額及び一審原告主張の経費のうちこれに対応する部分についての的確な主張・立証がない本件においては、一審被告承継者の右主張を採用することはできない。

そこで、以下、一審原告主張の右利息支払の事実の存否について検討する。

甲第六二号証の一(借用証書)は、市販の連帯借用証書用紙に金額一〇〇〇万円の借用金額が記載された金[木靈](大月)宛の昭和四二年九月一二日付書面であり、連帯債務者欄に一審原告の住所氏名の記名印と印鑑が押捺され、収入印紙が貼付されたものであるが、利率、弁済期に関する約定を記載すべき欄は白紙のままになっており、保証人欄も白紙の状態である。そして、一審原告本人は、原審及び当審において、一審原告の主張に沿う供述をするとともに、大月に対する借入金は昭和四八年初め頃返済したとも供述し、原審証人金[木靈]も、貸付日を除いては右に沿う供述をしている。

しかしながら、右一〇〇〇万円の出所については、右のような記載にとどまる甲第六二号証の一以外には裏付となる資料はないうえ(甲第五三、五四号証の各一・二の記載も右裏付になるものではない。)、右に対する利息支払を裏付けるべき証拠もなく、右によると、前記記載又は供述から大月に対する利息支払の事実を窺うことはできないというほかはない。

また、松岡に対する利息支払について、一審原告本人(原審及び当審)並びに原審証人松岡政勝は、一審原告の主張に沿う供述をするが、三〇〇〇万円という貸付金の存在についてこれを窺わせるべき証拠はなく(甲第五〇、五一号証の記載も、直ちに右貸付金の存在を推認させるものではない。)、右供述から松岡に対する利息支払の事実を窺うことはできない。

以上のとおりであって、一審原告の主張する利息支払(一審原告の反論4項)を肯認することはできない。

四  所得金額について

以上から本件係争年の一審原告の総所得金額を算出すると、本判決別紙総所得金額計算表のとおりとなり、本件処分は適法である(なお、一審原告申告に係る必要経費から一審被告承継者主張の減算がされることについては、一審原告の明らかに争わないところである。)。

なお、本訴においては国税不服審判所長のした審査裁決による認定額を超えた総収入金額の主張は許されないなどとする一審原告の主張(一審被告承継者の主張に対する認否4項参照)は、独自のものであって採用することができない。」

二 以上のとおり、一審原告の本訴請求はいずれも理由がなく棄却を免れないから、一審被告承継者の控訴に基づき右と異なる原判決を右のとおりに変更し、一審原告の控訴及び附帯控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 横畠典夫 園田秀樹 園部秀穗)

別紙

総所得金額計算表

(単位・円)

昭和44年分

昭和45年分

昭和46年分

1 事業所得金額((1)-(2))

22,743,550

48,930,648

39,474,207

(1) 総収入金額(<1>+<2>)

<1> 貸付先判明分(ア・イ)

ア 小口貸付台帳分

イ 証書等貸付分

<2> 貸付先不明分

26,200,265

15,511,845

90,000

15,421,845

10,688,812

52,631,112

40,253,045

2,029,770

38,223,275

12,378,067

43,311,854

31,981,275

2,694,510

29,286,765

11,330,579

(2) 必要経費(<1>+<2>)

<1> 一審原告申告分

<2> <1>への加減算(ア~オ)

ア 減価償却費

イ 借入金利子

ウ 専従者給料

エ 給料・賃金

オ 地代・家賃

3,457,107

2,362,048

1,095,059

138,847

956,212

3,700,464

3,226,665

473,799

△19,247

567,046

△320,000

246,000

3,837,647

1,134,378

2,703,269

42,007

1,755,262

910,000

△4,000

2 不動産所得金額((1)-(2))

124,597

(1) 総収入金額

203,600

(2) 必要経費(<1>+<2>+<3>+<4>)

<1> 固定資産税

<2> 契約書作成料金

<3> 看板料

<4> 造成工事償却費

79,003

43,778

7,600

14,500

13,125

総所得金額(1+2)

22,743,550

48,930,648

39,598,804

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